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Blade Rondo Tradition 〜Frost Veil〜

No.61 氷刃剣(シンシア)

今や歩くのも覚束ない祖父のことを、シンシアはいつも案じている。暖炉前で木彫りをするかつての戦士を、貧しい村は持て余していた。村長の息子がシンシアを嫁にと誘うが、その提案も祖父を救うものではない。 シンシアは人を傷つけるのが嫌い。敵意と向き合うのも恐ろしい。しかし決めた。村は戦士を必要とし、シンシアは力を持ち合わせていた。

No.62 灰の剣(ゼフェル)

ゼフェルは自分の剣術を天性のものだと自負している。馬上試合では竜の使徒ソルフリートに敗北したが、その真骨頂は実戦においてこそ発揮される。どれほど殺したくない相手でも確実に仕留める実行力は、善良でありたがるソルフリートには望めないものだ。そして薔薇の使徒という飛び抜けた肩書ならば、故郷の凡俗共も価値を認めざるを得ないだろう。親族は彼に家業を継がせたがり、その才能を評価しようともしなかった。

No.63 銀嶺槍(ナディア)

ナディアは意識を持たない。いつ現れるとも知れぬ敵に備えてケルドゥの霊峰を守り続けるのに彼女は適任だった。何も叶えてくれない竜のために。竜を軸にして決断を束ねる民のために。使用されない器官は機能が衰えるという。ナディアは時間を失った。生まれてから死ぬまでが一枚の紙だ。星のまたたきが体じゅうを貫いて、彼女の主観は死を迎えている。 今ここにあるのはその残滓だ。

 

足元を横切った雪イタチが、白い軌跡となって空間に残る。

No.64 露払いの白刃(シルヴェーヌ)

罪に耐えよ、という主命をシルヴェーヌは忠実に守る。修道騎士の錬成は、罪悪の理解と超克という二段階で行われる。説諭と鞭によって罪悪を身体に刻み込まれた上で、必要とあらば罪をも犯す。小さな悪を伴う大きな正義を、今や彼女は迷いなく遂行できる。大半の者は試練半ばで心を壊すが、生き残ればその分強靭な騎士が生まれる。シルヴェーヌは壊れなかった。彼女の頭上では鐘の音が鳴り続けている。教皇の御脚を油で清めた時の光景を、彼女は永遠に想起し続ける。

No.65 圧壊剣(ブリオッシュ)

ブリオッシュに私心はない。ただ主人に仕えるのみである。と言いたいところだが、主人の方こそがブリオッシュに意志なるものを期待するのだから悩ましい。あなたに仕えることが望みです、と言うと主人に含み笑いされ、じゃあまあ一人守って欲しい女がいる、と雪国で小さな魔女に引き合わされる。握手を交わした時、魔女は言った。

 

「今後は一歩下がってなさい。デイジーは私のものだから」

 

分かりやすい命令なのに、なぜか胸が混ぜかえる。と同時に、小さい、細い、肌は白磁のよう、と見た目の印象がやたらと認識を占める。その認識は主人で塗り替えられた。顔を覗き込まれている。何分か固まっていたらしい。主人は面白がっていた。 

No.66 アイシクルドロップ(コゼット)

コゼットは氷の楼閣を築き上げ、悲しく閉じて終わりでも良かった。楼閣は群がる卑しさへの結界となったが、ある日にこじ開けられてしまう。計算高い女盗賊の、心を用いた鍵によって。デイジーほど迷惑な女はいない。こちらの心を掴んでおいてどこかに行ってしまう。気持ちの整理がついた頃にまた現れて、用心棒なる女を紹介してくる!繋いでおきたいな。無理だろうけど……。

 

コゼットは杖の先から雫を垂らし、白く細いリボンへと変じさせる。

No.67 ヴォルテクスビオラ(ゲルダ)

ゲルダは不毛の大地を放浪する。命あるものを蹂躙する自走現象と化した彼女は、自分自身を認識できなくなっていた。

がちがちがちがちがちがちがちがちがちがちがちがちがちがちがちがち。

 

頭の中に響き続ける音。金属音。宝箱。大切なものがあったはず。かけがえいのない、だれ、か……。

 

無駄だよ。それはもう取り戻せない。失われたんだよ。きみの納得は関係ない。運命に理由なんてないんだ。

ありえないことではあるが、彼女が自己イメージを取り戻したなら、きっとそこに見たであろう。奈落のように二つ空いた穴から、どろり溢れ出る黒い血が。

No.68 スパイラルセージ(ミゼル)

終わってなんかない、とミゼルは信じている。壊れたものは作り直せばいい。大丈夫。元に戻れる。その気になればちゃんとできる。できないのは信じてないからなんだよお姉ちゃん。わたしの言葉を聞いて。わたしを信じて。

 

うん、また駄目だったね。でも諦める必要はないよ。時間はいくらでもある。ゆっくり積み上げていこうね。

 

うん、また台無しになったね。全部やり直しだね。いいよ。また一から出直しだ。がんばろうね、お姉ちゃん。

 

うん、同じところで駄目になるね。何が足りないのかな。ああ心だね。心が足りないからうまくいかないんだ。大丈夫、わたしが集めてくるからね。

 

うん、うまく合わないね。相性があるんだね。心配しないで。見つかるまで探せばいい。クジを引くのといっしょ。当たりが出るまで何度でも何度でも。だから、ね。わたしの言う通りにして。わたしに協力して。わたしの話に返事をして。ねえ、お姉ちゃん。 

No.69 テンペストアイリス(ザ・テンペスト)

《ザ・テンペスト》は忽然と歴史を横切ったイレギュラーだ。そのあまりに異様な出来事は、竜王ファゴラントスが永きの眠りから目覚めた時に起こった。竜王ファゴラントスの復活は、控えめに言って絶望だった。人間も魔女も大抵の困難は乗り越えてきたが、地表すべてを焼き尽くす絶対的な熱量の前にはどうしようもない。必死の対策も功を奏さず、世界が終わるかのように思われたとき、どこからともなく現れた謎の魔女が問題を消去した。信じがたいほどに卓抜した魔法で、竜王を力づくで氷海に鎮めてしまったのだ。その技巧は芸術的ですらあった。指先の動きで気流に干渉する。ひとつひとつの動きは簡単だが、絡み合って紡がれる結果は凄まじい。運命でも紡いだかのように広域の天候を制御し、竜王をも捻じ伏せた。見る者が見れば理解できる。それは不可能な事ではない。だがそれを描くのに、時代を流すほどの発見をいくつ重ねればいいものか。まるで未来の技術のよう。名も知れぬ魔女は仕事を終えるとスターリィ・ヒルルドリーを一瞥し、物憂げに息を吐いてからゆらりと消えた。

No.70 ハイドレンジアの魔剣(フォーリーン)

魔剣使い、とフォーリーンは自称している。剣術使いと魔法使いの両方を同時に名乗れて便利かと思ったが、まあ混乱を招いてばかりである。クレミエールの理念を実現するのに、人か魔法使いかで揺れていては駄目だと彼女は考えていた。その両方であることが得である、力を持てると示さなければ賛同者を得ることは出来まい。知り合いの政治屋はおりこうさんねと彼女の肩を叩いたが、失敗者の礎結構ではないか。今はまだ弟子二人だけ。だが、新しい時代の始まりは、往々こうしたものではなかったか。

No.71 結実するドルチェ(ヴィエラ)

格好いいですね、と言われてヴィエラは面食らった。

 

「暗殺者、格好いいですね」

なんと皮肉ではなかった。ハンチング帽の少年はまっすぐにヴィエラを見ていた。何も知らない子供が、一体なにゆえにこのうすら汚い世界の伝令役をやらされているのかは知らない。ただ残念ながらヴィエラには、みっともないわよ、と正直に言う良心は残っていなかった。代わりに囁いてやる。

「本気で望めばなれるわよ」

「なれますか!」

 

と興奮する少年に舌なめずり、彼が好みそうな秘密をヴィエラは口にする。力が弱くても大丈夫。人間の限界を超える秘密があるの。そう言って樫の箱から取り出したるは禁忌の林檎。ヴィエラが密造した、血よりも紅い精神の果実。

No.72 凍りつくハウル(ソルフリート&ファゴラントス)

無論のこと、この地の民の意志はファゴラントスの制御下にある。表面上素朴な土着信仰として偽装されるそれは民の意識に深く根を張っていた。抗おうとも思えないほど強固に。 樹氷の下で雌伏を強いられて己の復権だけを望む竜王は、小人たちの仲間割れやおおよその趨勢は理解している。理解できなかったのは、かれの復活が妨げられた原因だ。悪夢から目覚めるだけの歳月が経ち、存分に溜まったものを吐き出してまず自身の生理から満足させようという試みは、理不尽に阻害されることとなった。前触れもなく現れた、ただ一人の小人の力にねじ伏せられたのだ。大質量の樹氷に封じられ、以来ファゴラントスは心を動かすことしかできない。あの異常個体は何だったのか。正体の知れぬものに対する激しい怒りが、時折ソルフリートの顔を歪ませて凶行に及ばせる。 

No.73 調停するカンパネラ(メヴィエリアラ)

メヴィエリアラの編み出した手法は、どうにも思うように広まらない。彼女は評価されている。その仕事ぶりについてだけなら悪く言う者もいない。巧妙に策定された、八方丸く収める制度の数々。どうしたら思いつけるのかとよく尋ねられ、彼女はそのつど正直に答えている。単純明快な理屈である。すべては8で説明できるのだ。それは黄金の数字であり、どのような難問であっても8という数値から解決策を導けるのが彼女の方程式だ。

 

誰にも理解されなかった。

No.74 遠吠えるクレシェンド(ロディ&エリン)

大切なのはあなただけ、とエリンは狼に言う。ロディは吠える。そんなことはないよ。きみは失った家族の心地を補填しようとしてぼくを強く抱く。でも違う。きみを愛せるのはぼくだけではないんだよ。気づいていないようだけど、きみはぼくよりも多くの武器を持っている。人に通じる言葉とかね。振るって、射程と癖を確かめて、持ち方を探るべきだ。どの武器もやることはそう変わらない。ぼくはどこで誰といても自然界での位置を忘れることは無いから、誇りを失うことも決してない。だからできる限りのあいだはきみの期待に応えようと思う。でも、ずっとは無理だ。その時が来たら早朝に、竜爪の岬にでもぼくを埋めるといい。晴れ渡る空をその目で見るんだ。

No.75 回遊するルフラン(セーヌ)

森を駆けるエルフたちを束ねていた頃の記憶はセーヌにはない。霧の結び手は、存在が世界に溶けて空へと至った仙女の成れの果てだ。大いなる流れによって集約された濃霧が意識体として形を得ている。生物としての制約や苦悩は免責されている代わりに、役割がなくなればあっさりと空へと還るだろう。セーヌが携えるのは《道紡ぎのフルート》。進路を照らすという名目で旅人に授け、要所への侵入を選択的に管理する。とりわけ秘匿されなければならないのは、眠れる竜王の棲家である。

No.76 刻み記すラメント(ドリアーナ)

ドリアーナはこの山の環境を統べる王である。霧の結び手の中でも飛び抜けて濃厚な意識を備えた支配者であり、山での生殺与奪は彼女が決定する。発現の原因となった石碑は雪の地の民が刻んだもので、その雪の地の民は竜の影響下にある。ゆえにドリアーナもまた竜の影響下にあるが、彼女は独自の価値観により支配を退ける。生くるに値するのは、生くるに長けた者ではなく魂の気高き者であると。相対する者たちに試練を与えながら、金色の頭でドリアーナは考える。未だお目にかかれない我らが竜王は、さてどれほどのものであろうかな。

No.77 束縛のスフェーン(ドドーナ)

ドドーナは人を守ろうとした。当時目覚めつつあった竜王はあまりに強大で、彼女は強大な山神の力を頼った。山深くへと分け入ったドドーナは神から純粋な目的意識を評価され、右眼に魔眼を授けられる。山神の創意が色濃く込められたそれは、ドドーナが敵視した存在をただちに凍てつかせる強大な武器となった。竜王の業火は凄まじかった。向こう十里を焼け野原にされながら彼女は満身創痍になりながら、魔眼の力で善戦し死傷者の数を抑える。しかし、彼女が守った力なき人々はドドーナを糾弾した。環境に甚大な被害を許し、いまだ竜王を無力化できない咎は彼女にあると。

 

魔女の目から溢れ出たのは涙では済まなかった。

No.78 清冽のムーンストーン(ガウニレイエ)

人は人の世界にしか生きていない、とガウニレイエは内心で喝破する。断じて神の世界にではない。それは人工の概念だ。神を支持するのは人間だけだ。姉は言う、偶然にしてはあまりに豊穣な自然の機能美そのものが、それを成した神がいる証拠に他ならないと。では神という言葉は何を説明するものだというのか。人格の有無すら誰もはっきりさせようとしないではないか。愚か、言葉の形骸化以上の何物でもなし。鴉同士はカァと鳴いてカァと応える。犬は違う声を用いる。同胞で信号を共有するのが重要なのだろう。そこまで分かれば、神を信じる人々の世界での処世術もあきらかだ。矛盾する神の定義を恣意的に取り出せば、社会を望む方向に誘導することができる。姉や先代たちは無意識にそれをしてきた。ガウニレイエは意識的に行う。

No.79 ぬくもりのアンバー(リリアンヌ)

リリアンヌは戦後結婚し、時代の求める良妻となり、何人かの子供を産み、曾孫たちに手を握られて死んだ。

No.80 極光の空のオパール(オーロラ)

オーロラを見ることのない人生は犬死にである。美しいとか、感動できるとか、そういったレベルの話ではない。どんな人生を歩んできた者でも、あれと出会えば否応なく理解する。自分は幸福でもなんでもないものを見て、幸福だと思いこんできただけなのだと。根源的に無知だった自分に愕然とし、生き方を変えざるを得なくなるのだ。それからの人生は様々だ。仕事を捨てて木彫りに勤しむ者、運命の配偶者を求めて放浪する者、悪事をぴたりとやめて弱者の支援に回る者。共通するのは、彼ら彼女らが惰性の生活を手放して自分なりの「本当の価値」を求め始めることだ。天の彼方より降り注ぐ羽衣の輝きは、凍土の果てで鮮明になる。