dominagames

――常識を凌駕して、世界の骨組みを垣間見た高揚。
――志を共にする仲間たちと共有した、秘密の記録の数々。
――暴かれた実験室。報酬を懐に入れながら謝罪してきた、密告者の弱く卑しい心。
――安全のために、安心のために、未知を排斥する暴徒と化した人々。
――人道のもと魔法使いを葬るために下された、魔法使いは人間ではないという最悪の審理。
――引き裂かれ、貫かれ、燃やされた報われぬ魂……

あなたの渾身の技が、ヴェロニカから生命の最後の一片を奪う。
「最善の判断。研ぎ澄まされた一撃。
 そう、紛れのない状況把握と取捨選択があなたの強みなのですね――」
彼女の口から血が噴き出る。
それでもこのイデアから消えない、笑顔自体に偽りはない。
どこまで追い詰めても彼女は余裕を演出し、口から賛美を吐き続ける。

ヴェロニカを見逃すことはできない。
だが支配を受けていたためとは言えずっと尊敬してきたヴェロニカを、殺したくはないのも本心だった。
手心を加えてよい理由にはならないが、これまではそうやって自分の感情を、蔑ろにしてきたのではなかったか。
あなたの出した答えは、道理も気持ちも両立させることだった。
瀕死の彼女に手を差し伸べる。
「改心しろ。行動を変えるだけでもいい。それで命は助けてやる」
あなたの申し出を聞いて、ヴェロニカは腹を抱えて笑い出した。

「改心……人間が、宗教も迷信も克服できないお猿の分際で、立派なことを言ってくれる!
 くくく……その愚かな人間に、わたしたちが魔法使いがどれだけ踏みにじられてきたことか……
 あなたはユーモアまで備えて……ふっふふ」
「この人ならもしかして、って思うんだよ」
それまで誰もいなかった柱の影から、白い剣士が現れる。クレミエールだ。
「ううん、挑戦者はむしろ逆かな? ねえヴェロニカ。
 清濁飲み下せるたおやかなこの人の活躍に、あなたの執着はいつまでもつのかな」
「すべての人間を地に這いつくばらせるその日まで、ですよ。私は滅びないのですから」
きっぱりとそう言い残し、ヴェロニカは塵となって消えた。

教会を支える柱が一本、音を立てて地面に吸い込まれる。
「剣も《ローズ》も昔、わたしがこしらえたんだけどさ」
ヴェロニカのいたところを見つめながら、クレミエールがぽつりと話し始める。
「なんか人間同士の殺し合いに使われちゃってね。そんなつもりじゃなかったんだよ。
 イデアたちも伝承の力が、あんな酷い殺し合いに使われるなんて思ってなかった。
 わたしもヴェロニカちゃんに一杯食わされたってことなんだけど」
柱は二本三本と、見る見るうちにすべて沈んでゆく。
床に残った穴から雷のように亀裂が広がる。壁に天井に這い回り、空間全体を覆い尽くす。

世界が崩れていく。
足場も何も無い中で、クレミエールはあなたを見つめている。
「むかしは魔法使いがそれ以外……今で言う、あなたたち人間をいじめてた。
 でも、そのもっと昔には人間が魔法使いをいじめてたんだ。
 わたしね。みんなに仲良くしてほしかったんだよ。人間にも、魔法使いにも。
 本当なの。そんなのが目的だったの。後から見ると馬鹿みたいでしょ?」
彼女の笑顔が、ふと力ないものになる。

「わたしは剣のシステムを維持する雑務の王に成り果ててしまったから、
 彼女たちの復讐を黙って見てるしかできなかった。
 誰かにうまいこと、このこじれきった状況を解決して欲しかったんだよ。
 あなたなら……《ローズ》の企てを止められるんじゃないかな。多分できると思う。頼むわ!」
勝手なことを言い残し、クレミエールもまた消えた。

光の輪をくぐり抜けると、見慣れた《ローズ》の宿舎にいた。
右手には自らの誇りである《薔薇の紋章》が変わらぬ姿でそこにある。
夢などではなかった。
ヴェロニカを倒した顛末も、クレミエールの言葉も脳裏に焼き付いている。

夜が明けてしまう前に、あなたは静かに宿舎を去った。
信じた正義と誇りを捨てて、強大な敵に立ち向かう死出の旅路。
あまりの無謀さに目眩がするが、この道を行くと自らで決めた。

斬撃剣が、朝日を浴びて煌めいた。

(物語の行方はBlade Rondo」へ続く)

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